東京高等裁判所 昭和29年(う)1983号 判決
被告人 吉川順三
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
所論現行犯人逮捕手続書の末尾には、丸ノ内警察署司法警察員が被告人をその関係書類と共に東京地方検察庁検察官に送致した旨記載されているに拘らず、次欄において東京区検察庁検察事務官がこれを受領した旨記載せられ、更に記録によると本件を同検察庁において処理していることは所論のとおりである。しかしながら本件については、東京地方検察庁及び東京区検察庁の各検察官が共にその処理権限を有するので、たとえ司法警察員からの送致先が前者になつていたとて、それに拘らず後者においてこれを受領し、その処理をするのに何等の妨げもないものというべきである。而も右逮捕手続書その他一件記録に徴するも、東京地方検察庁において本件を受理した形跡は毫も窺われないので、所論移送手続の問題を生ずる余地はないのである。して見れば、本件について所論移送手続を要するものと前提し、被告人の検察官に対する供述調書が違法のものであるとするのは当らない。従つて原判決が右供述調書を採証に供したのは何等違法でなく、論旨は理由がない。
二、同第二点について。
所論現行犯人逮捕手続書の末尾記載によると、丸ノ内警察署司法警察員からの送致日時は「昭和二十九年三月九日午前十時〇分」とあるのに、東京区検察庁検察事務官の受領時刻が「同日午前九時三十分」となつており、明らかに前後矛盾していることは所論のとおりである。けれども、かように事実上不可能に属する両個の相容れない記載の存する場合には、その双方又はその何れかが誤つているものと解するの外はない。而して本件においては、前記受領時刻が正確であつて、実際の送致時刻がそれ以前である場合は勿論、彼にその反対に前掲送致時刻が確正であるとしても、将又、右送致、受領の両時刻が共に誤つているとしても、被告人に対する勾留状の記載によると、該勾留の請求が同月九日になされている点より見て、本件送致の手続は逮捕の日時たる同月八日午前零時四十分頃(同逮捕手続書第二項)から起算して法定の四十八時間以内になされていること極めて明瞭である。然らば本件捜査手続に所論のような刑事訴訟法第二百三条に違背する廉はないので、右違背を前提とする本論旨も理由がない。